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TOP > 簿記の理解ってどういうこと!?        (2004/7/8)


「簿記は演習が大事。でも丸暗記はだめ。ちゃんと理解しながら解いてください。仕訳の意味を考えながら解いてください。簿記一巡を大切にしてください」
と、多くの講師はいう。私も言う。しかし、簿記の理解ってなんだ?仕訳の意味ってなんだ?ということでつまづく人も多い。私もつまづいたので、いろいろな基本書を読み漁ったわけだが・・・・・。
「簿記を理解する」「仕訳の意味を考える」って、どういうことだろうか。「簿記の構造」「簿記一巡」って、何だろうか。
そして、そもそも「理解」ってどういうことだろうか。

かの沼田大先生は、「簿記教科書五訂新版」の中で「精算表によって複式簿記の構造が示される」と述べている(P62)。
山桝大先生は、「複式簿記原理」の中で直接的な言及はないものの、「この複式簿記というのが、企業資本の残額ならびにその構成と、利益の額とを、ともに明らかならしめるための組織的な計算体系であるということ、しかもそこでは、利益の額が、損益勘定と残高勘定とによって、いわば同時二面的に算定される仕組みとなっているということ、したがってまたそのことから、複式簿記のもとにあっては計算上の正確性に関する限りそれが自動的に保証される筋合にもあるということ・・」というヒントが記している。

私なりの解釈では、簿記一巡の手続きと簿記の構造、仕訳の意味、理解、という言葉は次のような感じになる。
あくまでも私なりの理解なので、ご容赦を。

簿記一巡 開始仕訳ー>期中取引仕訳ー>決算予備手続ー>決算本手続ー>報告手続 という「手続」、すなわち期首から期末までの一連の記帳プロセスを言う。(簿外での処理も含む)。

一連のすべての仕訳+仕訳に必要な簿外での処理

簿記の構造 正しくは複式簿記の構造というべきだろう。

総勘定元帳などの帳簿から報告すべき財務諸表等を作成する基本ルール。

(例えば、貸借一致の原則、勘定がどの財務諸表に集計されるかの取り決め、どのような性質の財務諸表を作成するかの取り決め・・・・などの「複式」であることと、さまざまな「財務諸表」を作成する、という基本的な性質のルールである。財務諸表は、企業会計ではB/ S、P/L等が作成され、公益法人会計では収支決算書、正味財産計算書などが作成される。)

「複式」「会計期間を区切って、数種の財務諸表を作成する」「財務諸表の作成は、すべての勘定科目が集計され、いづれかの財務諸表に収納される」というあたりが、キーワードだろうか。
仕訳の意味 1 簿記一巡の中でどういう位置づけを占めているのか、という意味。なぜ、その簿記一巡の手続の中で行わなければならないのか、という意味。
2 簿記の構造の中でどのルールに沿っているか、という意味。
3 その仕訳そのものが写像する企業活動、という意味。(複式簿記なので必ず2以上の意味がある)
という合計3つの意味があると思う。
理解とは ある事項が、あるルールに従って処理されていることがわかる・・・・ことであり、

「理解が進む」とは、

従っているルールを複数見いだすことができた・・・ということ
(最初の理解で発見したルール以外のルールにも従っていることがわかる・・・ということ)

である。

まあ、異なる理解が複数個重なると、理解が進む、という感じでしょうか。


簿記一巡の手続と簿記の構造は似ているが、あくまでも、簿記の構造という基本ルールの中でさらに細かいプロセスである簿記一巡の手続が行われているものと私は理解している。
イメージとしては、WRCラリーのコースが簿記の構造であり、その中でレースをするのが簿記一巡であり、そのレースの模様を写真で切り取った一瞬が仕訳であり、その写真の意味するところが、仕訳の意味である。ある写真をみると、運転席でドライバーがハンドルを右に切っている、これは、レースの中でハンドルを操作する、という手続(簿記一巡の手続)を意味すると同時に、コースの中の、ゴール手前の右コーナーという中に位置(簿記の構造)していることを意味し、その写真が写像するものは、ドライバーが車を右に曲げようとする活動(写像する企業活動)である、ということである。
(かえってわかりずらかっただろうか・・・)

というわけだかなんだかわからんが、上記の「理解」「簿記一巡」「(複式)簿記の構造」「仕訳の意味」を自分なりに消化していただいて、簿記の演習時に考えながらやれば、簿記理解の効果があがる・・・と思う。

さらに、もう少し具体的に考えてみよう。

ある企業。決算の作業がすべて終わりました!いやーようやく終わった・・・・・。と思ったら!重要な仕訳がひとつ抜けていたことに気がついた。ある重要な売上げの計上漏れが見つかったのだ。
うへーーー。仕方ない。この計上漏れを修正するしかないな・・・・。

というときに、帳簿組織全体に対する影響が、さっと答えられるようなら、簿記の構造、簿記の一巡については、理解しているといえよう。
列挙してみる。

簿記一巡(期中)
・売掛金の額が増える。(売掛金勘定の借方に記入される・・・資産の増加である)
・売上の額が増える。(売上勘定の貸方に記入される・・・・資本増加の原因である収益の増加である。)

(決算予備手続)
・精算表の作り直し。該当勘定のほか、合計金額も変わる。
・場合によっては、原価率が変わるので、売価還元法での棚卸資産評価のやり直し。もちろん総勘定元帳もやり直し。棚卸資産の金額が変われば、売上げ総利益の金額変更、営業利益ほか段階損益もかわる。商品仕訳もやり直し。売上原価の数字がかわる。
・貸倒引当金の額が増える。
・営業利益の金額が変わる(その影響額は売上−貸引の増加分)
・他の段階損益も変わる。
・法人税の額がかわる。未払法人税の額もかわる。

(決算手続)
・売上補助元帳、売掛金台帳の締め切りのやり直し。場合によって人名勘定もやり直し。
・売掛金、売上元帳、貸引、貸引繰入ほか動いた勘定の帳簿締め切りのやり直し。

(資本振替)
・損益振り替えのやり直し

(報告)
・B/S、P/L、S/Sの該当する部分、合計部分、差引部分を修正

もっと細かく考えればもっとあるだろうと思う。

単純な 売掛金/売上 の仕訳をいれるだけでこれだけの影響がでてくる。この仕訳の意味は、簿記一巡の中では、期中取引になるものであるが決算手続の中でその累積金額が使用されるということであり、簿記の構造の中では、売掛金はB/Sに収納され、売上はP/Lに収納される、ということであり、仕訳そのものの意味としては、売掛金という債権が会社に存在することを写像し、またその原因は、売上であることを写像している、ということになる。
何気ない仕訳ひとつであるが、決算整理でどのような修正がなされ、それがどのように他の勘定、B/S、P/L等に影響していくのか、この単純な 売掛金/売上 の仕訳をいれることが、帳簿組織全体にどのような影響を及ぼすか、それが瞬時にわかることが、簿記をよく理解している、ということになるのだろうと思う。もちろん、これだけでなく、他のどんな仕訳であろうとも、その影響が帳簿の隅々までわかる、ということだ。なお、ここで帳簿組織とは、総勘定元帳だけでなく各種補助元帳や集計表なども含まれるものとする。
(ちなみに実務でも、いったん固まった数字を動かすことは、異常に嫌われる。ま、それは簿記の構造だけでなく社内の責任やらなんやら、オトナの事情がからんでくることが多いのだが・・・実務では消費税も影響してくるしね・・・)

こうした簿記の構造、簿記一巡をはっきりと記憶、意識していれば、「問題文の拾い漏れ」が格段に少なくなることは保証しよう。

で、こういう簿記の理解には何がいいかというと、私はやはり、帳簿組織の勉強を勧めたい。また沼田先生ご推薦の「精算表」がらみの問題をよーく勉強するのもいいのではないかと思う。また、「勘定分析」の問題も、簿記の理解にはお勧めだ。
まとめると

・ 帳簿組織
・ 精算表作成問題
・ 勘定分析

の3つは、簿記の構造理解に役立つと思う。特に精算表はお勧めであり、効果的効率的度合いは、他の2つに勝ると思う。精算表はさまざまな形のものがあるが、決算整理前→決算整理仕訳→決算整理後→BS、PLを作成するものがもっともよいと思う。なぜなら、沼田先生ご指摘のとおり、精算表は、「すべての勘定が必ずいづれかの財務諸表に収納される」「複式であるが故の検証機能」が一目瞭然にわかる形になっているものであり、これは簿記の構造をほとんどを占める重要な要素であるからである。
私的には、帳簿組織が絶対に効果的であったのだが・・・・多くの受験生には不評のようだ。試験には直接でる可能性は少ないうえに、時間がかかるため、敬遠されるらしい。もっとも基本だと思うのですけどね・・・・・。
勘定分析の問題は簿記の構造が理解できているかどうかを確かめるのにはよい問題だと思う。いわゆる推定簿記のプリミティブな形ですな。こればっかり演習してもしょうがないと思うが、やってみて、どうも不得意と感じたら、上記、精算表、帳簿組織の演習に戻ってはいかがだろうか。

帳簿体系としては、貸借対照表を中心に据えると理解するとよいだろう。簿記の基本はBSなのだ。
P/Lは、B/Sの当期未処分利益の増加分の内訳を説明する内訳説明書であるという理解ができるし、キャッシュフロー計算書は、B/Sの現金預金勘定(正しく言えば現金及び現金等価物)の当期増加分を説明したものであり、公益法人会計であれば、収支計算書はキャッシュフロー計算書に類似し、(資本増減表)はP/Lに相当するものであることがわかる。

前回、「車で簿記が得意になる!?」でイメージ図を紹介したが、これは簿記の構造、簿記一巡までたどり着いた図ではなく、この仕訳の部分が、簿記一巡、簿記の構造にからみあっていくのである。
それを紙芝居にしてみたので、興味ある人はどうぞご覧あれ。

動画:たぶん本邦初!簿記の構造紙芝居 (BGMは、阿弥陀音曲工房さんの「夢の精の魔法」を使用させていただいています。)
   (約1MBあるので、右クリックでディスクに落としてから見た方がいいでしょう。Macで見れるかどうかわかりません。wmvファイルです。)

動画をみて、決して落胆したり、怒ったりしないように。
ようは、ひとつの仕訳がどういったものと関連があり、どのように影響するのか、というイメージです。本当は、PLやらBSやらを入れ込んだり、帳簿組織を入れ込んだりしかたったのだが・・・・、ま、あの、これ以上の説明のスキルも動画作成のスキルもないので、このへんで勘弁してください。

また、参考までに、沼田先生の簿記教科書のもっとも大事なご意見の載っている見開きを載せておく。沼田先生に敬意を表し、解像度を落としてあります。興味があれば図書館ででも眺めてみてください。余裕のある方は買ってみてください。お勧め書籍にも追加しておきました。

引用「簿記教科書五訂新版」沼田嘉穂、同文館出版(株)平成4年3月 p62−63


以上が簿記の構造理解でした。
で、次は、簿記一巡の理解・・・・を書こうとおもったのですが、気力がなくなってきましたので、また今度。

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