TOP >経営学の基本書 (2001.1.21)
私が受験勉強中、最後までグッドな基本書に出会うことがなかった科目です。そこで、新たに受験生にお勧めのできる基本書を探してみました。
今回の選択にあたり、合格者からの視点にならないように気をつけてはいますがどうしても受験直後と異なり仕事をしながらの読書となったため視点が異なってしまう事態も考えられます。そのへんを割り引いてご利用ください。
基本書を選ぶにあたり考慮した点は以下のとおりです。
1 テイラー、バーナード理論等の基本的な理論が歴史的順序で述べられているか
2 歴史的研究者達の横顔(人柄)に関する記述があるか
3 他の受験科目(又は他の学問)との関連が示されているか
4 実例を豊富に載せているか
5 用語解説のコーナーがあるか
6 著者の経営学に対するスタンスが熱い言葉で語られているか
7 経営学は一般人にとって不可解な学問であることを認識しているか
経営学はその全体構造が確立されていませんので、どうしても経営学の基本となるとテイラーあたりからの歴史を知らないと理解が難しくなります。近代経営学の基礎となったバーナードについても同様です。いきなり最新のM&Aや日本固有の人事制度などが羅列的に載っているものはサラリーマン向けとしてはいいのかもしれませんが、理解しようとするには不適と感じました。また、系統だったものがないだけに興味を引きだし、記憶に定着されるためにはストーリー性が必要になります。そのためには、研究者個人のプロフィールを知る必要があります。同様に、系統だっていないがために、他の学問とのつながりが重要になります。受験科目で言えば、経済学と経営学とのつながりを知っておけばシナジー効果も高まります。(しかし、テイラーと標準原価計算のつながりを記述していた本は残念ながら皆無でした)。あとはどの科目にも言えることですが、実際の社会でその学問がどう生かされ、どう影響されているのか、それを知らなければ生きた学問になりません。したがって紙面の許す限り事例を載せる必要があります。そして、意外に基本書に欠けているのが、用語解説です。「組織的怠業」と聞いて、内容がすぐわかる人は希有です。私自身、今回の基本書選定まで、ストライキのことと思っていました。(ほんとの意味は下記「テキスト経済学」に載っています)特に経営学は独特の言葉を使う場合が多いので、用語解説は欠かせない要素だと思います。最後に、本はどんな種類のものであれ、理解のために読む本はストーリーがなくてはなりません(一部の前衛的なものを除いて)。
以上の基準で選んだのが以下の基本書です。なお、基本書主義のコーナーで紹介しているものも含まれています。
「テキスト経営学―基礎から最新の理論まで」井原久光(ミネルヴァ書房)
お勧め度 10
試験委員の本以外での基本書では、一番のお勧めです。上記のほとんどの要素がつまっています。まえがきに、ストーリー性の重視や実例を豊富に載せてあることが強調されており、その通り良書だと思います。よくできたまえがきです。まえがきで、著者の力量がわかるものです。特に研究者達のキャラクターをしっかりと記述している点が特にいい感じです。写真まで載せたのは実に良いことだと思います。チャンドラーとポーターの写真が並べられている基本書が他にどこにあるでしょうか。用語解説も丁寧で秀逸。経営学をとりまく周辺の学問との関わり合いもばっちりです。経営学の基本を学ぶのに最適な本だと思います。ただし、これを暗記しようなどとは決して思わないでください。楽しく理解するために読む本です。
「入門経営学」亀川雅人、鈴木秀一(新世社 2,500円)
お勧め度 6
試験科目としての経営学に必要なことが過不足なく載っている良書です。決して上記の条件にあてはまっているわけではないですが、よくまとまっています。予備校がサブテキストで使う場合などにはぴったりでしょう。上記「テキスト経済学」に比べ、理解のために読むのはつらい面があるかもしれませんが、穴をなくすための確認用としては最適でしょう。
「経営学入門」占部都美、加護野忠男(中央経済社)
お勧め度 2
日本を代表する経営学者の本。期待して読み始めたが、うーん、お勧めできません。目次はよくできているし、全体の構成は悪くはないと思うのだが、個々の記述が総括的、総論的で理解のためにはほど遠い。きっとすごい学者さんなのでしょうが、教育者としては今一歩の感じがします。著者は「入門」の意味をはき違えているのではないだろうか。
もしこの本を持っていたら目次をコピーして、目次を見ながら内容を自分なりにすらすら言えるようになればOKじゃないでしょうか。目次はよくできています。
「基本テキスト 経営学 全体構造の理解」(icoライセンススクール)
お勧め度 8
いわゆる基本書でなく予備校のテキストですが市販されているので一応、ここに紹介します。
さすが予備校本。網羅性はばっちりです。研究者のキャラクターも「テキスト経済学」ほどではないにせよ、肝心な人については書いてあります。予備校が作る本にしてはめずらしくまともな本です。私としては「テキスト経済学」の方がお勧めですが、どうしても時間がないという方には、これでも不足はないでしょう。もし、この本を読んで、まだ理解できん、という方は「テキスト経済学」に進むというのもいいかもしれません。欠点は、読みにくいという点でしょうか。それは文章でなく段組というかレイアウトです。もう少しいい編集者がやると違ってくると思うのだけど・・・。ちなみに、合格体験記でルピカさんがこのシリーズの問題集を薦めていましたね。私は今回、問題集までは検証できませんでした。
「ゼミナール経営学入門」伊丹敬之、加護野忠男(日本経済新聞社)
お勧め度 2
受験生時代から持っていた本ですが、ほとんど読んでいませんでした。経営学の歴史についての記述が薄く、本の構成もよいとは言えない。ちょっと独特な本でした。経営学を誤解したい人のための本。
「マネジメントとは何か」佐々木恒男(文真堂)
お勧め度 5(今回 お勧め度を 1から5に変更)
基本書主義のコーナーでも紹介している前試験委員の本。薄い本なのですぐに読めます。今読み直すと意外に網羅性にもすぐれ、著者の主張もわかりやすいので、経営学の系譜を外観するにはいいかもしれません。あえて買うほどではないかもしれませんが、既に持っている人は捨てずに読み直すことをお勧めします。
「戦略経営のすすめ」十川廣國(中央経済社)
お勧め度 10ー>1へ格下げ
ここまでつまらない本もめずらしい。しかし、私の予想では、2001年は必ずこの本から出題されると思いますので、お勧め度は10です(当時、今は1)。試験委員になってから本を出す研究者なんて、私は絶対に信用できません。そこまで金に困っているのでしょうか。前の西田試験委員もそうでしたけど、こちらは本の内容までしょうもないからたちが悪い。まあ、お布施だと思って買ってください。シュンペーターとポーターさんが要注意ですな。
「競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか」MEポーター(ダイヤモンド社)
お勧め度 8
あのポーター大先生の書。試験への直接の役立ちはないかもしれないが、こういう鋭い方の考え方を知っておくと後が強いぞ。著者はわかりやすい本は目指していないというが、とくかく実例が豊富で、実際はわかりやすい。本気でコンサルを目指す方は、必読の書。この本を読めば日本の経営学者のレベルがとても低くみえる。
基本書主義のコーナーでもお勧めしています。ちょっと厚い本なのでたじろぐかもしれませんが、ぜったいおもしろい本です。保証します。時間のない方は最初の第1章と第2章だけでも図書館で読んでみてください。後は合格してからでもゆっくり読みましょう。2001年の十川先生は、ポーターから出すような気がするんだけどなあ・・・。
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