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帳簿組織はもういらない?

 受験生を悩ます帳簿組織。多くの人が、「このコンピューターの時代にもういらないでしょ、時代遅れでしょ」と考えるがゆえに習得されないかわいそうな分野です。さてさて・・・



 こんばんはすぽっくです。

 帳簿組織は悩ましいですね。本格的に論文試験に出ることはほとんどないだろうし、今後の実務でも必要なさそうだし、と思うと学ぶ姿勢も弱くなりますよね。
 しかし、私は帳簿組織は簿記の構造を学ぶのに必要であると思います。また、私自身、帳簿組織は好きな分野で得意分野でした。
 なぜ帳簿組織が重要なのでしょうか。
 それは簿記がコンピューターによって処理されても、所詮、それは、古い簿記の帳簿組織を再現するためのものに過ぎないからです。もちろん、現在のコンピューター会計のデータ構造は、古い簿記のもののそれとは違います。しかし、データ構造は違えど、最終的にアウトプットされる帳簿は、総勘定元帳や伝票、補助元帳、仕訳帳等です。それは、簿記によって現代企業を写像しようとすると、どうしてもそのような帳簿体系になってしまうからです。もちろん、企業によっては仕訳帳や補助元帳は一切出力しないという場合もあるでしょう。そのような点で、企業の会計実務においては、もはや帳簿組織の知識は、いならくなっているのかもしれません。しかし、我々は監査人。監査人が会計情報を監査しようとするときは、試査をしますが、その際に帳簿組織の知識が必要になるのです。
 たとえば、買掛金の抽出をしようとします。ある仕入先の買掛金残高は、いろんな時期の複数の取引が重なった残高ですから、その実在性をチェックしようとすると膨大な数になるため、仕入先別の補助元帳を出力してもらいます。すると、仕入先別の補助元帳には、個々の取引が記載されていますから、この中から、いくつかを抽出して、それにかかわる実在性チェックをしたりします。(具体的には、発注書や請求書等の証票書類と突合します)。もし補助元帳がなければ、総勘定元帳から抜き出しますが、実務上は、まず不可能です。
 企業の規模が大きくなればなるほど、総勘定元帳は合計転記(的)な記帳になり、補助元帳や管理台帳等が重要になります。すると、帳簿同士のつながり、というのが大切になるわけです。どの数字とどの数字がつながっているのか、正確性、網羅性は保証されているのか、そういう点が重要なわけです。ちょっといいかげんな企業だと、処理間違いで、補助元帳と総勘定元帳のつながりがおかしいときもよくあります。すると、会計士は試査の中でも、ある程度の範囲については、転記の正確性、網羅性をチェックするため、あの「チェックマーク」を一個一個つけていくこともあるわけです。
 ちょっと例が適切でなくてわかりにくいかもしれませんが、ようは、監査において、帳簿組織の理解は、とっても重要である。ということがいいたかったのです。
 不正により、帳簿組織の数字のつながりが意図的に切られることだってないわけではありません。

 さすがに二重削除金額を計算するようなことはもはや実務ではないかもしれません。しかし、あの勉強も、一つの仕訳がどのようにして二重に書き込まれ、転記されていくか、ということを考えるのは、会計情報の流れ(数字の流れ)を追う感覚を養うのに、最適なのだと思います。この会計情報の流れ、こそ、簿記の構造という川を流れるあぶくに他なりません。

 ちょっと抽象的でしたかね。とにかく、簿記の構造理解のために帳簿組織は重要である。ということが言いたかったのです。特に効率的監査のためには必須です。

 さて、上達の方法ですが王道はありません。地道にじっくりと、演習するしかないでしょう。テキストの例題だってバカにせず、繰り返すのです。
 私がTACでお世話になった加藤講師は「あなたが会計士になって、監査に行ったら、あこがれの芸能人がなぜか経理部で働いていた。帳簿の書き方がわからないようなので、あなたが指導しなければならない。そんな状況を思い浮かべながら帳簿組織の勉強をすれば、すなわち、あこがれの異性に丁寧に記帳指導するように、チェックマークを忘れないようにするように、じっくりと勉強すれば、必ず、帳簿組織は得意になれる」といっていました。
 私もそうしました。
 地道にやるしかないでしょう。しかし、簿記の構造理解のためには、大切なことだと思っています。
 私は帳簿組織の問題が時代遅れの問題だとは思っていません。簿記の基本中の基本なのだと思います。そもそも、簿記は「帳簿記入」の略でしょ。


 参考までに、元試験委員だった山枡忠恕先生の著書から引用します。
「かつて公認会計士試験の試験委員として簿記の出題ならびに採点に従事したさいに感じた最大のことは、世の受験者諸氏のなかには、それこそ日常ごくまれにしか遭遇しえないような、きわめて特殊な事柄や枝葉末節な事項については、居部的・断片的に高度の知識を備えつつも、基礎的なルールにたいしては、意外に無知・無頓着なかたがあまりに多い、ということであった。」(複式簿記原理P3まえがき)
 この方は、昭和35年から46年という、えらい古い時代の試験委員ですが、こうした昔から、受験生は基礎をないがしろにする、と嘆かれていたわけです。
 そして、この山枡先生が重視されているのは、帳簿のこと、帳簿記入のこと、帳簿組織のことなのです。勘定って何?という疑問も大切にしている方です。
 今も昔も学者の問題意識は変わっていないと思います。そして、昔は、意識のある程度は高い(はずの)少数の受験生であったのが、今は、より一般的な人間が受験生として参入しているわけで、おそらく、基礎をないがしろにしている受験生の割合は、過去よりも多いのではないかと思う次第です。
 だからこそ、いまだに、本試験では、過去の歴史的産物(と平均的受験生には思われているが、実は大切な基本)が出題されるのだと思います。


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