書評:東大教授が教える独学勉強法

2022/08/25

書評:東大教授が教える独学勉強法

柳川範之/草思社 kindle版
受験生オススメ度 8

親の都合で海外で学生生活を送り、日本の大学を通信教育で履修し、今は東京大学経済学部の教授をなさっている柳川先生による勉強法の本。

メインターゲットは研究者を目指す者や大学で学ぶ者という位置づけですが、資格試験の勉強法にも示唆に富む記載が随所にあります。
ここでは書評というよりも、柳川先生のお言葉を借りて、公認会計士試験に立ち向かうヒントを考えたいと思います。

理解のスピード

P30 「人によって学び方のスピードに大きな差があるのは当然であり、そしてスピードの速さが理解の質とは必ずしも一致しないのです。この点はとても大事なポイントです。」「さらに言えば、どういう順番で勉強すれば頭に入るかというのも、人によって大きく違うのです。」

資格試験においては、予備校の講義スピードは、あくまでも全範囲をこなすために一定程度機械的に振られたものであり、個々人に合わせたものではないことはもちろん、必要な理解の質を優先してスケジュールが組まれたものではありません。その点、自分の理解度、自分の性格によって、インプットスピードは変える必要があるのですが、現実には難しい部分があります。何かスピード感が違う、と感じた時に、自分でどう工夫できるかが問われるものと思います。

理解の方法は人によって異なる、タイプが異なれば本来は進捗度は個々によって異なる

P31「頭に入れておいてほしいのは、「自分は頭が悪いから」とか「勉強なんて向いてない」と思っている人も、実は理解のタイプが合わなかっただけかも知れない。いや、その場合がほとんだと言うことです。」

「勉強するうえで大切なことは、自分のタイプを知ることだと思います。」

P49「評価の高い本や参考書が自分にはまったくわからない場合でも、たまたま手に取ったそれほど知られていない参考書を読むとスッと頭に入ってくるという場合もあります」「ですから、いきなり本格的に勉強に取り組むのではなく、少し時間をかけていろんな試行錯誤をする準備期間を持つことが大切なのです。」

資格試験の特に初学者の罠となるのは、①試験日までの時間が限られており、専門学校のカリキュラムはそれをすべて消化する前提で組まれている、②初学者ゆえに全体像を見通せておらず、全体像がわかり、勉強法の道筋が見えてきた時には時間的に間に合わなくなっている、ので、仕方なく物量・時間をとにかくかける、というパワープレイを強いられ、それに合わなければ脱落してしまう、という点にあるのだと思います。

だから、
早い内に全体像を理解し(←入門書でもなんでもいいから科目の全体像を掴む)
段階に応じ、自分の習熟度に応じ勉強法が変わることを理解し(←だからといって、独善となり、原則よりはずれた方に行かないよう注意)
常に試行錯誤をしていくことが必要であろうと思います。

暗記のコツ

P55「私(柳川先生)の場合で言えば、暗記科目が苦手なので、どうしても何か覚えなくてはならないときは、なるべく理論を引きつけて覚えるという勉強のコツを持っています。」

東大教授でさえも、「コツ」として、理解を使っての暗記(理解を覚える)、をやっているということです。

「これまで受験勉強など解答テクニックの習得がしみついてしまっている人は、何でもかんでも素直に受け入れすぎる傾向があるようにみえます。」「あまりに素直に読み過ぎてしまうと、右から左に抜けていってしまうので、結局のところ本当の意味では何も身につかないんだと思います。」

勉強する、ということは、これまでの既成観念を持つ脳に傷を付ける行為であり、やはり苦しいものだと思います。簡単に入ってくるものは、簡単に抜けてしまう、ということでしょう。

応用力をつけるということ

P120「応用力をつけるには」「まずは基本をしっかり抑えること」「応用に取り組む際に、基本から少し変化させるということです。応用問題の難しさは、基本問題の時とは状況が変わっていることにあります。」「この「別の角度から見たり、状況を変えたりして」考えることこそが、応用問題を解くことでもあるのです。」

基本が分かっていても、応用問題が解けない、というのは、基本問題の中の暗黙の前提がわかっていない場合が多いように思います。著者の言うとおり、その基本とこの応用で、状況(前提)がどう違うのか、どこまで違えば、結論が異なってくるのか、それを考えることが応用力を付けることなのでしょう。

あとがき

勉強法について、とても示唆に富む本です。資格試験に臨む受験生も読む価値あると思います。